令和5年度 美祢市人権教育リーダー講座での質問と回答
令和5年11月17日実施の講座「ヤングケアラーの理解と支援について考える」において、受講者から3つの質問がありました。
これらの質問について、講師を務められた山口県立大学社会福祉学部 准教授 横山 順一(よこやま じゅんいち)氏から回答をいただきましたのでお知らせいたします。
子どもとかかわり続ける場として、大人はどんな環境を作れるのでしょうか? 実際の事例があれば知りたいです。
(回答)
「子どもとかかわり続ける場」の意味のとらえ方がいくつかありますが、一般的に、大人の側が子どもとかかわる場を作る際には、以下のような点に気をつけるべきだと思います。
子どもと大人がかかわる場は、安全で安心な開かれた場所でなければなりません。自由に遊んだり、学んだり、話すことができることや、誰も排除されることが無いことが重要です。身体的な安全ももちろん大事なことですが、心理的な安全も非常に大事です。
また、その場には大人のゆるやかな指導やサポートが必要です。子どもの主体性や自己決定は大事ですが、子どもだけの場にしないことが身体的・心理的安全性の確保には必要です。そこにいる大人は、子どもと関わる資格を有するなどの専門性を有する方が望ましいと思われます。
こうした場は、一度作られて健全に継続できるようであれば、できるだけ存続することが望ましいと思います。長期的な大人と子どもとのかかわりは信頼関係が形成されやすく、それが子どもたちの安心感にもつながります。
実際の事例については、ご質問の主旨と合っているかどうかが不明ですが、参考文献から、次の3例をご紹介します。詳しくは、それぞれのホームページなどで確認してください。
(参考文献:「貧困児童 子どもの貧困からの脱出」加藤彰彦(2016)創英社/三省堂書店)
・「子ども村・中高生ホッとステーション」(東京都荒川区)
子ども達の居場所づくりを考えていたグループが区の貧困対策として「学習支援・学習サポート」を始める。友達がいない、家族の支援を受けられない等の問題がある中・高校生を対象。談話、ゲーム、勉強をするスペースがある。
・「フリースペースたまりば」(神奈川県川崎市)
家庭や学校、地域の中に自分の居場所を見いだせない子どもや若者が集まれる場(=フリースペース「えん」)をつくる。生活保護世帯の中学生のための学習支援事業や15~29歳の若者を対象とした居場所と就労自立支援の事業も実施。
・「山王こどもセンター」(大阪府大阪市)
学童保育を中心に、学校に行っていない子ども、社会につまはじきにされている子どもを含め18歳までの全ての子どもを対象。誰が来ても良い場所として「夜の子ども会」や土曜日の事業も展開。
子どもが家族(親)の世話をすることによって学業の遅れが生じてくる問題には、具体的にはどのようなものがありますか?また、その学業の遅れに対して、どのような支援があるのでしょうか?
(回答)
次のような問題が生じると思われます。まず、時間的な制約です。家族の世話に追われることで生活習慣が不規則になり、学習時間が確保できないことで家庭学習が十分にできず、学習進度に追いつかなくなったり、睡眠時間が削られることで、寝不足で昼間の勉強時間に集中できなかったり、といった時間の不足によって生じる学業への影響です。
こうした問題により、学校への出席が不安定になり、欠席や遅刻をしがちになることで、さらに学習進度に追いつかない、課題が提出できない、といった問題が生じます。
また、家族(親)の健康状態や介護に関わる不安や悩みが、子どもの精神的なストレスを引き起こすことで、学業への集中力を欠いて、理解力の低下や学習意欲に負の影響を与えかねません。
これらの解決のための具体的な方策は、家族内にケアを入れるか、家族や親族が皆で協力して個の負担を直接的に軽減することが一番ですが、すぐにそれが困難であれば、側面的なサポートが必要です。まずは、家庭学習を何らかの形でサポートする、例えば、柔軟な学習環境をつくることです。学校や図書館、その他地域の中などの、家族の介護から離れることができる時間と場所に学習環境をつくることです。可能であれば、そこに本人のニーズ(学習進度や理解度など)にあわせてサポートできる人がいれば、なお良いと思います。
また、心理的なサポートができることが望ましいです。子どもの年齢によっては、進学、進路の不安がともなうかもしれませんし、介護のストレスを抱えていては環境が整っても勉強に集中できないかもしれません。そうした不安や悩みを吐き出せる相手がいれば、より集中して学業に向き合えるようになると思います。
社会人が親の介護で仕事を辞めるケースがあるが、仕事を続けられる具体的な対策などはあるのでしょうか?
(回答)
仕事と介護の両立のための方策として、まず思い浮かぶのが介護休暇制度の活用です。この制度を活用すれば、離職せずに仕事をしながら介護を両立させることが可能になるかもしれません。制度の活用には、職場に親の介護を行っていることを早めに伝えることが大事です。一方、本人がおかれた状況を理解しサポートするなど、休暇を取得しやすい環境が職場には求められます。
もちろん、介護保険制度を活用すること(要介護認定を受けること)も必要です。自分で介護しすぎることの無いように適切に介護サービスを活用することが大事です。地域包括支援センターや市町村の窓口で相談にのってくれます。
介護保険制度を活用すれば、ケアマネジャーがケアプランを作成してくれますが、その他の相談にものってもらえ、心理的サポートも受けることができますので、日頃からの不安や心配ごとをため込まないように積極的に相談をすることが必要です。
もし、リモートワークが可能であれば、通勤時間の節約や働き方を柔軟にできるなど、介護と仕事の両立をよりしやすくすることも選択肢の一つです。
公的な制度を使う前であっても、できるだけ早く相談することでよりスムーズに対応できるかもれません。本人がひとりで抱え込むことの無いように、周囲も早めに声をかけるなど相談をしやすい環境を整えることも大切です。
この記事に関するお問い合わせ先
教育委員会事務局 生涯学習スポーツ推進課
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更新日:2024年02月26日